Abstract
本研究では音の生成をメディア考古学的視点に基づき3つの作品制作を通して再考した。研究の背景にはメディア考古学という過去のメディアにまつわる言説を調査することで異なる歴史の可能性を提示する研究アプローチの存在がある。本研究では音を生成する仕組みについてメディア考古学的視点での調査を踏まえ、それを元にしながらも先行事例とは異なる音生成のあり方を探る作品制作を行った。具体的なアプローチとして、まず物理モデリング合成という、実際の楽器をコンピューターで再現する手法を電子回路や共鳴器のような音響的要素で物理的に再実装、具現化するサウンドインスタレーション『Aphysical Unmodeling Instrument』の制作、展示を計4回行った。また、オーディオフィードバックを発音原理とする、演奏に空間的要素が入り、既存の楽譜で記述不可能、またコンピューター上での再現が不可能な電子音響楽器『Exidiophone』の開発とそれを用いたパフォーマンスを行った。最後に、音楽、更には時間の記述を再考するためのフィードバック構造を持つ、時間を分割する機能のみを持った電子計算機としての回路彫刻作品『Electronic Delay Time Automatic Calculator』の制作、展示を行った。以上3作品それぞれの制作を踏まえ、メディア考古学的アプローチとして3作品を改めて考察し、音の生成の異なる可能性について議論する。