松浦知也 アーティスト・ステートメント
(2023年5月)
松浦 知也(神奈川、日本)はSoundMaker-音を作るためにその道具や環境自体を作る活動をする者である。
松浦が興味を持つ対象は音そのものよりも、それを支える下部構造(Infra-structure)にある。個人、物質的なレベルであれば、既存のフォーマットに縛られない、音を生み出す現象レベルに目を向けた楽器の製作や演奏といった形態を取る。
たとえばハウリングのみで音を出す電子音響楽器「Exidiophone」(2018~)はコンピューターをまったく用いないが、空間の音響特性やスピーカーの配置に依存して変化する音はコンピューターを介して流通させると聴取体験が大きく異なってしまうように、アナログ電子回路でしか不可能な構造を生み出すことで、逆説的にコンピューターの固有性を浮き彫りにする。
一方、インフラを社会集団レベルで見れば、音楽の流通に関わるメディア規格やフォーマットといったものに焦点が当たる。そこには規格の造り手がそのユーザーを制御/支配(Control)するという生政治が存在し、ユーザーにとって本来あり得る制作や受容の選択肢はソフトウェアやプロトコル、プラットフォームによって無意識のまま制限されている。
たとえば音楽のためのプログラミング言語「mimium」(2020~)では、新しい表現のためのツールという視点ではなく、音楽のための抽象化のレイヤーを言語開発者が恣意的に区切ることによって分業が発生することを言語開発の技術要素の中から分析するなど、技術者の視点を獲得することではじめて成立する社会インフラの批評に取り組んでいる。
また制作のアプローチではPaul DeMarinisに代表されるメディア考古学的手法や、Daniela K.RosnerのCritical Fabulationsのように、既に使われなくなった過去のメディアのリサーチを作品制作の足がかりにする手法を取る。音響遅延線メモリーや楽器の物理モデルWhirlwindなどの廃れた技術を、「なぜそれが使われなくなったのか?」、「現在のコンテクストで再発明するとどうなるか?」といった視点で再考する。
こうした活動を総合したものを仮想的な学術領域 「音楽土木工学」(Civil Engineering of Music) として提示し、文字通り音楽に関わるテクノロジーにおける土や木に相当する部分を育む、またCivil-すなわち市民によるボトムアップな、あり得るオルタナティブな技術環境を作るために活動を続けている。
(2019年1月)
松浦 知也(福岡、日本)はSoundMaker-音を作るために音の記述と生成のシステム自体を作る音楽家・サウンドアーティストである。
その発表形態は音楽からサウンドインスタレーション、電子楽器楽器の制作に渡る。
松浦の興味は音そのものではなく音を記述し生成するシステムにある。ツールとしてプログラミングを信号処理から作曲まで広い目的で用いる一方、アナログ回路やプリミティブなデジタル回路などのハードウェアも扱うのは、作品の問いがときに普段プログラミングで扱っているデジタルの音のフォーマットそれ自体への疑問を呈すものだからだ。
またフィードバックシステムを作品の中心的な構造として頻繁に使うのは、同じような構造からでも安定と不安定両方の状態を生み出すからである。
作品の方法論として、Paul DeMarinisに代表されるメディア考古学的手法、既に使われなくなったメディアに焦点を当てリサーチをした上で作品制作の足がかりにする手法を取る。音響遅延線メモリーや非リアルな物理モデルWhirlwindなどの廃れた技術を、“なぜそれが使われなくなったのか?"、“現在のコンテクストで再発明するとどうなるか?“といった視点で再考する。
これらの活動は技術的、社会的両方の関心が元になっている。 道具を作るということは、一種のメタクリエーションであり表現の歴史自体に踏み込んでアクセスできるという魅力がある。一方でそこにはツールの造り手がそのユーザーを多かれ少なかれ支配するという政治的側面があり、実際音楽制作の環境は様々な音楽制作ソフトウェアや、あるいは配信メディア・プラットフォームに本来あり得る選択肢が無意識のまま制限されていると松浦は考えている。
松浦は規格化、固定化されたフォーマット―例えば楽譜、コンピュータ・アーキテクチャ、音のデータフォーマット―の再考、そして抵抗に焦点を当て、異なる可能性を提示し続けるために活動する。