未踏が終わりました 未踏が終わりました

publish : 2020-03-08

last update : 2020-03-08

去年の6月に未踏IT人材育成・発掘事業に採択され、2月16日に最終成果発表会を終え、成果報告書を先週提出し、一応ひと段落しました。

この未踏と呼ばれる事業は経産省系列のIPA(情報処理推進機構)というところが管轄しているプロジェクトで、25歳までの若者に9ヶ月間200万円くらいのお金をどんと払って、プロジェクトマネージャーのアドバイスのもと新しいソフトウェアや、テクノロジーを応用したなんやかんやを開発するもの。

年齢制限の枠やら金額とかは時代によって変化しつつも、今年でもう20年くらい続いているプロジェクト。

今年度松浦は「プログラマブルな音楽制作ソフトウェア」というタイトルで採択され、内容としては音楽プログラミング言語をひたすら開発していたのでした。

この記事では開発内容と経緯は置いといて、未踏自体がどうだったかについて少し書いていきたいと思います。

p.s. 開発の流れについても書きました

mimiumができるまで

未踏に通って良かったこと

お金がもらえます

博士に滑り込んでからというもの収入の目処がJASSO以外全く無い状態だったのでかなり救われました。金が全てでは無いが全てに金が必要というやつです。

一番大きい買い物は7年使い倒したMBP2012から乗り換えたMacBookPro16inchでした。期間中も5月から12月ぐらいまで外付けSSDにOSを入れて(本体のHDDがSATAコントローラを巻き込んでぶっ壊れたため)開発したりプレゼンしてたのですが、正気ではない。

定期的に関東とか関西に行ける

これは地方勢のいいとこですが、なんやかんや月1ペースでMTGがあるので東京やら大阪に行く予定ができます(別に、そのついでにどっか遊びに行くみたいな時間はほとんどないのですが)。今回のPMグループの3人がちょうど東京・関西・九州とバランスが良かったためPMごと進捗報告は大阪とか京都が多かったです。

移動が好きなので移動できて良かったです。

全然違う分野の人との交流

低レイヤー系の人やセキュリティ関連の人のプロジェクトと関わることは音楽とかデザインの大学にいた人間からすると絶対起こり得ないことだったので、かなりいろんな知識がついてシンプルに楽しかったです。

あと、自分のプロジェクトも8割ぐらいは普通のプログラミング言語実装と共通するところが課題になっていたのですが、その辺の周辺知識の吸収もおそらく独学でやっていたよりはるかに効率よかったはず。

わりと放置してくれる

これはPM次第だし相性も色々あるのですが、私の場合竹迫PMは初回打ち合わせの時から「基本口出さないので自由にやってください」と言った通り基本放置、しかしやばい時だけきっちりフォローアップするという姿勢でいてくれたので大変助かりました。8、9月あたり全然進捗が出ないとか、そもそも年末になるまで音響合成できてないとか側から見ると結構やばいと思うのですが、暖かい目で見守っていただき大感謝です。

未踏に対して思うこと

ここからは9ヶ月間未踏のコミュニティにいて思った未踏事業全体に対すること。

未踏「ファミリー」と「天才を知るのは天才であり、天才を育てるのも天才にしかできない」

未踏ファミリーという言い方は統括PMとかがたまに使うワードで、天才を育てられるのは天才だけというのはオフィシャルな広報物に乗っかっているワードなんですが、良くも悪くも未踏を象徴する言葉だなーと思います。後者を最初聞いたときは結構ぎょっとしたおぼえもありますが・・・。

先ほども述べた通り、未踏はただお金を渡す以上にコミュニティとしての性質が非常に強いです。

7月のブースト会議と呼ばれる、全体でそれぞれのプロジェクトのプレゼンをする回、11月の8合目会議と呼ばれる成果報告会に向けた進捗報告会にはクリエータ(その年の採択者)よりも多い人数の未踏OBOGが集まってアドバイスをしていただけます。その他おおよそ月例のPMごと進捗報告会でもPMの意向やクリエータの希望によりOBOGやゲストを呼ぶことがあります。

そのほか採択されると未踏社団と呼ばれるOBOGやPMで構成される社団に入ることができ縦方向の繋がりを作ることもできます。ちなみに、最近17歳以下対象の未踏ジュニアという事業を主催しているのはIPAではなくこの未踏社団で、PMは大体未踏本体OBOGです。こちらは支援金が50万(人件費ではなく物品購入などの経費になるので確定申告がいらない)まで、原資が企業スポンサーだったりと同じ系列だけど実施形態は実は随分違います。こっちの方が教育、人材育成的側面が強い感。

で、良くも悪くもと書いたのはこのコミュニティの質が合う人合わない人がいるよなあということです。

ということを感じたのは2018年度の会田さんのブログを成果発表終わってからたまたま読んだから。

未踏と20世紀少年 - Tora Blog

会田さんとは直接面識ないですが文化庁メディア芸術祭の新人賞とってたりとか、未踏のコミュニティでいえば比較的近いバックグラウンドにいる方で勝手に注目していたのですが、彼の場合は未踏はあんまり馴染まなかったのだということが受け取れますし、自分自身がこういう感想になっていた可能性は全然あるよなあとも思ったのです。

Safe Spaceと内輪ノリ

未踏の会議や月次MTGは、最後の成果報告会を除いて基本的に内容を外部に公開することがありません。毎回NDAにサインします。これは未踏で作るものが自分のようにOSSばかりでなく、ベンチャーの起業も視野に入れて特許を取りに行くようなものもそれなりにあるからです。

そういうわけで未踏をやってる期間のクリエータやPMは「今日は未踏のブースト会議です!」とツイートはしてもその内容をツイートすることはなく、2月になって初めて大々的にこれをやりました!と言う事になります。

個人的に、実はこの会議のクローズド感や、あとは未踏社団のような未踏関係者限定コミュニティの存在がコミュニティとしての未踏の質感に大きく関わっているのではないか、と考えています。

会議がクローズドであるということは、最終成果報告会までになんとかなりさえすれば期間中のMTGではどんだけ大ポカやらかしたり、1ヶ月丸々進捗ありませんでした!でもそれが外部に出ることはないので平気っちゃ平気ということになります。つまりある種の「安全に失敗できる場所」をしての機能を提供していて、人材育成としての未踏の機能を強化しているといえます。

あとはブースト会議でのOBのLTとかではとても公開はできない某社の裏話とかをしてくださった方とかもいるわけですが、コミュニティが閉じているということはそういうぶっちゃけトークができたり、本音が出しやすいのでコミュニティの結束を短い期間で固めやすいという側面がありますね。

一方で副作用としては、一度馴染めなかった人にはとことん馴染みづらくなるということがあるでしょう。既にコミュニティにいる人が新しくコミュニティに入ってきた人(つまり、その年のクリエータ)に対して普段のノリでアドバイスしたと思っていたらクリエータにとっては「なんかもの凄い突っ込んでくるなこの人・・・」となったりすることがあったりするわけです。そういうケースは何件か聞いた気がする。

+、コメントしてくれるのは大体年上というか経験者なのでうかつに反論しづらいというパワーバランス的な不均衡もありますね。アドバイスする側としてはそんなこと気にせずガンガン反論してくれ!と思っててもパワーある側がそれを思っているだけではあんまり意味がないという。その意味では今年のブースト・八合目会議では未踏ジュニアのOBの皆さんが加わってくれたのはその辺をいい具合に中和していてくれた気がします。

あとは、コミュニティの状態が外から観測できないので、なんかコミュニティの雰囲気がやばい方向に進んでてもそれを外から止めてくれる人がいないというパターンです。要するにカルト化です。

(これはまあトビタテJAPANという海外留学奨学金を取ったときにも同じことを思ったのですが、)未踏は国の事業として珍しく20年続いた長寿事業で、もう関係者が1700人とかいるらしいです。で、そんだけ続いて自主的にコミュニティに残ってくれる人は未踏大好き人間ばっかりで、不満を持ったりしている人はスッとフェードアウトしてしまいますよね。一応、事務局がその辺のフォローアップの調査をしてはいると思うんですが、わざわざ熱意を持って批判をしてくれる人はそうそういないので・・・。

まあ、カルトと言うほどではないですが未踏のコミュニティがある意味では偏っているという事はあるんではないでしょうか。なんせ天才しかいないらしいので・・・。天才云々を抜きにしても、技術者コミュニティのプレゼン文化みたいなものに久しく触れたせいか、僕自身の成果発表会のプレゼンもやや煽り気味な感じだったというか、無理にウケ狙っているところあったなあ、と会田さんのブログを読んでやや反省したりしています。

ウケを狙う事そのものが悪いわけでもないのですが、そーいうのが例えば技術を知らないものに対する驕りというか要らない上から目線だったり、特に必然性なく出てくる美少女キャラクターとかセクシズムというか、なんかその辺のnerdyな感じとかに容易に繋がってしまうことがある気がします(美少女キャラクター問題は色々根が深いので掘り下げません、大概は本人がそのキャラとかカルチャーに対して愛とリスペクトを持っていると75%くらいは平気だと思うんですが、それでもあんまりプレゼンの本筋と関係ないところで突然出てくるとフムッとなったりしますね…)。

公共事業としての未踏

もう一つは天才の話から関連して公共事業としての未踏についてです。

そもそも天才という概念もともと信じていないタチではあったのですが、去年未踏ジュニアの皆さんを見ていてその思いはなお強くなりました。未踏ジュニアには小学生とか中学生でバリバリiPhoneアプリとかWebサービスとかを作っている皆様がいっぱいいるわけですが、話を聞いていると割と中学からフリースクールみたいなところに通っていたり(そして未踏ジュニアの功績でそのままN高に推薦入学したり)、そもそも普通の公立小中学校に通っている人がほとんどいなかった覚えがあります。

普通の公立校通ってる時点でプログラミングに熱中してる暇もなけりゃそういう情報に出会う機会がそもそもやっぱり無いよなあ、と思うと、そういうのを知っていたり、やることを積極的に進めてくれる親のリテラシーの影響大きいな〜となりました。

つまりやっぱり天才っていきなりポンと生まれてくるわけじゃなくて環境が育てるもんだよな、と。

で、未踏という事業を改めて見ると「(環境に恵まれることで育った)天才を育てられるのは(環境に恵まれることで育った)天才(たちが集まるコミュニティという環境)だけ」ということなんかなーと思います。

公共事業の人材育成としちゃあ格差拡大まっしぐらなわけですが、未踏は経産省系列なので国の競争力が高まれば良くて、格差を埋めるところは文科省マターなんでそっちで、みたいなことなので、別にここを批判するべきでも無いのでしょう。

ただ今回の自分のようにあわや苦学生というところをうまいことすくっていただけているケースも少なからずでしょう。日本の大学院生全体的に恵まれてねーんで未踏みたいな資金は貴重です。ただ他の競争的資金とか奨学金をとっていたら応募できないとかの制限は特に無いので、既にガッツリ給付型の奨学金とかもらってる人ももらう事はできます。その辺の規定はもうちとバランス見ても良い気がしますが。

今後の未踏に頑張ってほしい事

公的事業としての方針はお国の問題なんでどうしようもないとして、コミュニティが内輪っぽくなったりして時々ドロップアウトしちゃう人が出る、的な方の話についてはあまり難しい事考えずにできることがあると思っていて。

要するにコミュニティの中にいながらそのコミュニティの批判が適切にできる人を増やせるようになればよくて、そうするにはコミュニティの人材のバックグラウンドをなるべく多様にするのが手っ取り早いと思います。OBOGだけじゃなくジュニアの人との交流機会増やすのは良い気がするし、あと普通にジェンダーバランスをなんとかしましょう。

今のとこPMは統括含め8人中1人、2019年のクリエータは20プロジェクト26人中3人。これ多分応募してきた人数比的にもこんなもんなんだろうなーと予測はできるし、大体毎年130件くらい応募がある中で中身の質をあくまで最優先に重視しつつ、さらに人材のバランスも取ってってのが厳しいのは非常によくわかるんですけど、そういう状態続くと未踏のコミュニティとしての機能に普通に悪影響ですよと思います。実際今年のブースト会議でも誰かのコメントが普通にセクシズム的にだめなやつがあって、後から別の女性の方がFBグループで指摘して、その人もちゃんと謝ったのでまあ一応解決、みたいなことありましたしね。

少なくとも大学の教員公募みたいに、能力が同程度だった場合女性を優先しますくらいのこと言ってもよいのではないだろか。

うわっ出たポリコレお化け〜みたいに思われるのもムカつくんで一応言っておきますが、仮に時間を巻き戻してアファーマティブアクションであなたのプロジェクトは非採択になったのでお金返してくださいと言われた場合、めちゃくちゃ泣くと思いますが返上することを誓います…。めっちゃ泣くけど。

あとまあなんか、行動規範(Code of Conduct)あるといいですよね。未踏は9ヶ月限りの事業なので作るの難しそうな気もするけど、未踏社団にはあってもいいんじゃないでしょうか。

その他(事務書類について)

会田くんのブログで書類仕事がめちゃくちゃ多いことに触れていましたがこれは本当です。毎週作業日報の提出をしなきゃいけないし、移動宿泊経費の領収書とかはかなりきっちり求められます。

が、これは未踏が人件費に対して支払いをしてる以上作業時間をきっちり記録しないといけないためで、その分払われたお金の使途が自由なのとトレードオフでしょう。確定申告しなきゃいけないのもありますけどね。

ただ未踏事務局の仕事のスピードというか効率は日本の公的(と言っても独法ですが)な組織の中では多分一番いいと思います。事務手続き上どうしてもハンコがいるところは押印求められますが、そのための書類の作成の90%は事務局側でやってくれます。大学のTAの出勤簿の提出でハンコ関係で無意味に5回ぐらい差し戻しされたのと比べると雲泥の差です。ちょっとは見習ってくれ(そういう意味ではこういう無意味書類仕事が増えるのって大学からな気がするし、感覚の違いは高校生と大学生の差もあるのかもしれないですね)。

事務局の皆さん日報提出が遅くてすみませんでした・・・。

応募のアドバイス

  • お前がやりたいことを書け

やりたくもないこと、あるいはやらなければならないことに対して9ヶ月間お金をもらって続けるのはプレッシャーがやばくなって途中で死ぬと思います。

やりたいことがないのに無理して応募する必要はありません。やりたいことがあるけど(時間|お金)が足りないという場合は多少無理してでも応募しましょう。

  • 応募要項をよく読め

これはフォーマットを厳密にやれとかそういう話ではないです。応募総数たかだか130プロジェクトぐらいなので学振と違って書類のフォーマットが多少荒かろうと内容が良いならそっち取るでしょう(多分)。あとの問題は内容が良い(ここでいう良いというのは例えば9ヶ月で実現できそうか、とかも含む)かどうかなわけですが、それを判断する基準は応募要項に全部書いてある(と僕は感じた)のでそれにきちんと答えればよいです。

それでダメだったらまだきちんと文章から良さが伝わんなかったんだなーと思うか、PMとの相性がよくなかったんだなーと思いましょう。あなたの思う"よさ"を信じましょう。

偉そうなことを言ってますが自分の応募書類を読み返すと結構ひどいというかやってること全然違うやんけ、となったので公開とかしないし、あんまり公開されてる人の応募書類を参考にするのもやめたほうがいいと思います。お前の書類はお前にしか書けないのです。

今年は時給が1600円から1900円に上がって合計70万円ぐらいもらえる額が上がっているので是非エントリーしてみて下さい。エントリー期限は9日の12時までですが書類の提出期限は11日なので間に合います。