Abstract
本発表では、発表者が製作中の電子音響楽器“Exidiophone”の紹介とその考察を行った。本楽器は、スピーカーとマイク間でのオーディオフィードバックを基本的な発音機構として用いている。実演を交えておこなったその仕組の説明では、マイク、光センサ及び対向するLED、コンデンサ、ベル型の共鳴器、スピーカという楽器の構成要素を示し、その動作を以下のように述べた。
”マイクで拾われた信号は、光センサの検知した明るさに応じて、その音量を変化させる。通常点灯しているLEDは、マイクの音量が閾値を超えることで消灯する。それ故、フィードバックの音量が大きくなると、音量が小さくなり、結果としてフィードバックが止まり、またLEDが点灯する。以上の周期的な流れは、異なる容量のコンデンサを付け替えLEDの反応速度を変えることで制御される。さらに、ベル型の共鳴器に取り付けられたマイクの向きや位置を変えたり、スピーカーを体で遮ることで、発生する音を変化させ演奏をおこなう。”
考察ではまず、関連作品としてオランダの作曲家であるMichel Waisviszが制作したCrackleboxを紹介した。筆者も演奏経験を持つこの楽器はExidiophone同様にフィードバック構造を持ち、完全な制御をすることが難しい楽器である。
次に、Sanfilippoらによるフィードバックを用いた音作品の分類に基づき[Sanfilippo and Valle, 2012]、関連作品の紹介、比較を行った。Sanfilippoらは、音作品の分類指標として、1. システムのアナログ(デジタル)性、2. 情報のコントロール、3. 環境への開放性、4. 発信のトリガー、5. 環境への適応性、6. ヒューマン・マシン・インタラクションの6つを挙げている。本発表ではこの分類に沿って、Exidiophoneの関連作品に対しての位置づけをおこなった。
その上で、各作家のフィードバックを用いた音の記述の違いに焦点を当て、さらなる考察をおこなった。その中では、WaisviszがCrackleboxに対して普遍的な音の記述法が存在しないといっていることや、Gordon Mummaがフィードバック回路の製作自体を作曲と捉えていること、David Tudorの回路自体が作曲を始めるという考えや中村としまるのシステムと共同して演奏するような考え、また、Alvin Lucierのシステムに対するあるルールをもった行動は即興演奏ではないという考え方を示した。
以上の多種多様な考え方を、筆者の演奏の経験を踏まえて再考すると、Exidiophoneにおけるフィードバックを用いた楽器においては、システムの設計としての作曲と、そのシステムを使ってする作曲の2つの段階を考えることができ、これは従来の作曲と演奏という概念では整理しきれないものかもしれない、という示唆を得ることができた。今後の課題としては、例えば、フィードバックをコミュニケーションの対象として捉えるサイバネティクスの研究を踏まえることで、さらなる音楽の概念の拡張に取り組んでいければ、と考えている。